近年は退職金制度の代わりに確定拠出年金(401k)を導入している企業も増えています。
将来の資産を形成するという目的は共通していますが、両者はまったく性質の違うものであり、会社を退職する際にしなければならない手続きなども異なっています。
ポイント
ここでは、確定拠出年金を利用する人が、新たなキャリアを歩む際に気をつけなくてはならない注意事項を解説していきます。
確定拠出年金とは?「確定拠出型年金の仕組みと背景」
確定拠出年金は、すでに務めている会社が企業型DCを導入していればすでに加入しているでしょうし、個人が資産運用を考える場合にも個人型確定拠出年金「iDeco(イデコ)」は税制上とてもお得な制度です。
まずは、確定拠出年金の基礎知識を学び、今後のキャリアに向けて有効に活用していきましょう。
なぜ確定拠出年金が必要なの?
そもそも、多くの企業で導入されてきた退職金制度は、老後のための資産形成という性格を帯びていました。
<従来の退職金制度>
以前は大多数の人が終身雇用の慣行のもと、一度入った会社に定年まで勤め続けていたため、勤続年数が長くなれば長くなるほど定年退職時にもらえる退職金の額が大きくなるシステムは有効に機能していました。
しかし、現在は一生ひとつの企業で働き続けるスタイルが当たり前とはいえなくなっています。また、高度成長期などと違って近年では企業が継続的に成長し続けることが難しくなり、多額の退職金を支払う余裕がなくなってきてしまいました。
ポイント
これらの課題を解決するために、老後のための資産を従業員の自助努力によって形成できるように導入された仕組みが確定拠出型年金です。
確定拠出年金の仕組み
毎月決まった額の掛け金を自分名義の口座に拠出し、株式や債券などへの投資で運用して将来のための資産形成をすることから「確定拠出」と呼ばれています。
<確定拠出型年金の仕組み>
つまり、受け取れる額が勤続年数に応じてある程度予想できる退職金と違って、確定拠出年金では運用がどれだけうまくいったかによって将来受け取れる年金が変わってきます。
拠出・運用した資産は、原則として60歳を超えてから老齢給付金などの形で受け取れるようになっています。
「老齢年金」とは
老齢年金とは、ある年齢に達したことにより支給される年金の総称で、公的な制度である「老齢基礎年金」や「老齢厚生年金」、生命保険会社などが運用する私的年金などがあります。
老齢給付金として受け取る場合は、5年以上20年以下の任意の期間で年金として受け取ったり、一時金として一括で受け取ったり、または年金と一時金とを組み合わせて受け取ったりできます。
ポイント
なお、確定拠出年金では、拠出した掛け金は自分の口座で管理されるため、万が一、会社が倒産したとしても全額が保全されます。
退職前に知っておきたい確定拠出年金の落とし穴
確定拠出年金は、うまく活用すれば税制的にもかなり優れた資産の形成手段となります。
しかし、その制度の特徴から起業や転職のために退職をするさいにはいくつか気を付けなければいけない注意事項があります。
確定拠出年金は「個人型」と「企業型」の2種類
ひとくちに確定拠出年金といっても、個人が自ら掛け金を拠出する「個人型」と、会社員が対象の「企業型」の2種類があります。
「個人型」は「iDeCo(イデコ)」とも呼ばれ、次のような特徴をもつ個人型確定拠出年金です。
個人型確定拠出年金「iDeco(イデコ)」
<個人型確定拠出年金「iDeco(イデコ)」の仕組み>
・個人が自ら掛け金を拠出する
・掛け金が全額所得控除の対象となり、確定申告・年末超お政のさいに税金の還付が受けられます。
<企業型確定拠出年金「企業型DC」>
「企業型」は企業型DCとも呼ばれ、次のような特徴をもつ企業型確定拠出年金です。
<企業型確定拠出年金「企業型DC」の仕組み>
・企業が定められたルールの基、掛け金を拠出する。
・企業が掛け金を拠出するため、その掛け金は企業の損金として処理される。
ただし、掛け金の運用はどちらの制度でも原則本人が行うことになります。
退職・転職時の注意事項①「退職しても脱退できない」
通常の退職金は会社を退職した際に給付されます。
注意ポイント
しかし確定拠出年金は原則として60歳を超えてからでないと給付が得られません。通常の退職金のように、退職して次の仕事に就くまでの間の生活費にあてることができないのです。
制度上、確定拠出年金は中途脱退が可能ですが、そのための要件は非常に厳しいものです。
企業型確定拠出年金(企業型DC)を脱退するためには「個人別管理資産額が15,000円以下であること」など厳格な条件が定められています。
また、個人が任意で加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)の脱退にも「拠出期間が通算で1ヵ月以上3年以下であるか、個人別管理資産額が25万円以下であること」などの条件が設けられています。
事実上、働いている現役世代は確定拠出年金から脱退し、預けている資産を引き出す(脱退一時金を受け取る)ことは非常に難しくなっています。
退職・転職時の注意事項②「退職後には確定拠出年金の移管が必要」
退職する際は企業型DCのある会社に転職するかどうかによって必要な手続きが異なります。
転職先の会社が企業型DCを導入している場合、新しい会社の総務部などに相談して年金資産の移管手続きを行います。
企業型DCを導入していない会社に転職する場合や、自営業者や専業主婦になる場合などは企業型DCを続けることはできません。
この場合は、iDeCo口座を開設し、運用していた資産を6ヶ月以内に移管するのがもっとも有利な選択になります。
注意ポイント
また、iDeCoへの移管を怠ると、株式や債券などで運用していた資産が現金化されて国民年金基金連合会に自動移換され、以下のようなデメリットを受けてしまいます。
iDeCoへの移管を怠ると「資産を増やせない」
自動移換に伴って資産が現金化されてしまうため、「投資・運用によって資産を殖やす」という確定拠出年金の目的が果たされなくなってしまいます(運用の失敗によって資産が目減りすることもなくなります)。
iDeCoへの移管を怠ると「手数料が発生する」
自動移換の際に4269円の手数料がかかるうえ、自動移換後4ヶ月目からは毎月51円の管理手数料が必要になります。
iDeCoへの移管を怠ると「受け取り開始時期が遅くなることがある」
自動移換された状態は、確定拠出年金の「通算加入者等期間」に算入されません。通算加入者等期間が10年に満たないと、受け取り開始時期が最大で65歳まで後ろ倒しされてしまいます。
iDeCoへの移管を怠ると「資産の引き出しができない」
自動移換された状態では、給付を受けられる状態になっても資産の引き出しができません。給付を受けるためにはiDeCo口座に資産を移管する必要があります。
退職時に個人型確定拠出年金に資産を移管するには
銀行や証券会社、生命保険会社などの「運営管理機関」に連絡し、「個人別管理資産移換依頼書 (K-003)」を提出することで、企業型確定拠出年金から個人型確定拠出年金への資産の移管ができます。
あわせて、個人型確定拠出年金への加入申し込みをすることで、掛金の拠出を継続し、将来の資産形成を続けることもできます。
補足:iDeCoを利用するなら証券会社へおまかせしよう
これからiDeCoでの資産運用を考えている人のために投資の酸いも甘いも経験してきたKUMAJoeが、iDeCo対応の証券会社をご紹介しておきます。
本当はおすすめの証券会社No.1を選びたいところですが、正直なところどれも業界大手の証券会社で信頼度は国内トップクラスですし、比較したところ手数料にも大差はないようです。
選ぶ基準としては、取り扱い投資信託の取扱銘柄数と、投資ツールのデザインやわかり易さ、それからサービスのアフターフォローが充実しているか、といったところでしょうか。
ただ投資信託の取扱銘柄数は、多ければ良いわけではないし、3社ともそれぞれの特色を出して一長一短に充実しているので、どれが良いとは言い切れません。
そこでやむを得ず、少し乱暴ですが選ぶ際のポイントを端的に絞り込んでみました。
盤石のSBIグループで、スマホでの操作性を重視するなら
■ SBI証券
つみたてNISAとの比較シュミレーションを試してみたいなら
■ マネックス証券
楽天サービスを使う頻度が多く、iDeCoについて電話で問い合わせをしてみたい(iDeCoダイヤルありで土日サポートあり 2020.2 現在)なら
■ 楽天証券
退職後は6か月以内に移管手続きを!!
退職や転職時にはさまざまな手続きをおこなわなければならず、緊急性の低い手続きは後回しにしてしまい、つい手続きが漏れてしまいがちなのが確定拠出年金の移管手続き。
退職後でも6ヶ月以内に手続きをすればいいのである程度の余裕はありますが、自動移換されると余分にコストがかかってしまいます。
まだ大丈夫だからと思わず、退職時に必要な手続きのひとつとして、少し時間を作って手続きをしておくことをおすすめします。