みなさんは、モチベーションについてこんな悩みはありませんか?
・部下のモチベーションをうまく上げられない
・チームの業績がなかなか上がらない
・モチベーションが長続きしない
この場合、対策として多くの方が考えるのは金銭的インセンティブなどを取り入れて叱咤激励するというところではないでしょうか。
しかし、こうしたアプローチは、期待した効果を上げられないケースがあるばかりか、時に有害ですらあることが分かっています。
普通に考えれば、特別ボーナスがあれば人はがんばって業績をあげようとするはずでが、なぜそうではないのか?
この記事では、モチベーションに関して勘違いしがちな事例と、その正しい知識をご紹介していきます。
また、あわせてその考えかたの根拠となる本もご紹介していきます。
もくじ
正しい知識を学ぶための本を選ぶポイントは?
何かについて正しい知識を学ぼうと思えば、できるだけファーストソースに近い情報を得ることがおすすめです。
ファーストソースとは、例えば今回のモチベーションでいえば、実験などを通してしっかりと検証された論文などがこれにあたります。
多くの本やインターネット上の情報は、これらのファーストソースに著者の経験や自己解釈を踏まえながら、薄められたものであることが多いものです。
そのおかげで情報がわかりやすくなったり、時代に即したものになるのですが、その反面、情報の質が落ちたり誤った解釈になったりすることもあります。
ポイント
・情報はできるだけファーストソースに近いものを選ぶ
今回ご紹介するモチベーションに関する本は?
今回ご紹介する著書は、どれもモチベーションに関してファーストソースに近い本ばかりとなっています。
モチベーションについて正しい理論を学びたい方は、ぜひ一度手に取ってみて下さい。
今回ご紹介するモチベーションに関する名著 3選
・「動機づける力」
・「人を伸ばす力」
・「モチベーション3.0」
正しいモチベーションがわかる本①「動機づける力」
人に何かをやってもらいたかったらどうすればいいか。この問題に対して、フレデリック・ハーズバーグというアメリカの心理学者は「KITA」という「伝統的な」手法を紹介しています。
「KITA」による動機づけ
「KITA」とは「Kick in the pants(あるいは「ass」)」の略で、日本語に訳すと「尻を蹴飛ばせ」くらいの意味です。
しかし、「○○をしたら△△をあげよう(あるいは、○○をしろ、さもないと△△をくらわせるぞ)」というモチベートの仕方は、長期的には受けた側のやる気を減退させたり、あるいは業績を低下させたりする可能性があります。
いずれにしても確かなのは、やる気に満ちあふれてモチベートされているのは、実はKITAをしている当人であって、KITAをされたほうは蹴飛ばされた勢いで動いているだけだということです。
では、蹴飛ばされて動いただけの人間にもう一度動いてもらわなければいけないなら、どうしたらいいのでしょうか。答えは簡単で、もう一度蹴飛ばしたらいいのです。
「KITA」の欠点
しかし、この方式には決定的な欠点があります。人に動いてもらいたいと思うたびに、わざわざその人を蹴飛ばさなければならないのです。
我々が人のモチベーションを上げたいと思った時、絶えずその人を監視しておいて、少しでも働きが悪くなったら蹴飛ばしに行かなくてはならないような状況を望むでしょうか。
普通、人のモチベーションを上げたいと思った時には、その人に任せておけば、いつもやる気をもって仕事に取り組んでくれるように望むでしょう。
仕事の充実化によってこそ社員はモチベートされる
KITAはモチベーションにならず、「仕事の充実化」によってこそ社員はモチベートされるとハーズバーグは主張しました。
考えるべきは「どうすれば社員に発電機を組み込めるか」ということであり、社員の権限を増やしたり、より意義があってチャレンジングな課題に挑戦できるようにしたりという工夫こそが「仕事の充実化」であるとハーズバーグは言っています。
このモチベーションに関する理論を詳しく学べる本
ハーズバーグの「モチベーションとは何か」という論文は、初出は1968年と、すでに半世紀が過ぎています。
動機づける力
ハーズバーグは、「動機づけ・衛生理論(二要因理論)」で、仕事への満足と環境への不満足による影響を考察することによって、今日にまで大きな影響を与えた学者です。
その主張は次の書籍に詳しく出ていますが、実物の購入は難しくなっているので図書館などで借りて読まれてもいいでしょう。
仕事と人間性―動機づけー衛生理論の新展開
著:フレデリック・ハーズバーグ 翻訳:北野 利信
正しいモチベーションがわかる本②「人を伸ばす力」
ここでは、報酬がモチベーションに与える影響について、アメリカのエドワード・デシという心理学者が行った実験をご紹介します。
大学生を対象にパズルを使った実験
デシは、大学生を対象として、それ自体が知的好奇心を大いに刺激される非常におもしろいパズルを題材に実験を行いました。ここでは被験者のグループを2つに分けました。
まずテスト前の予備調査の段階では、大学生たちはパズルが楽しいと答えて、パズルを解くこと自体を楽しんでいました。
テストが開始されると、片方のグループ(A)にはパズルを解く度に報酬を出すと告げました。このグループは、テスト中、懸命にパズルに取り組みます。
もう一方のグループ(B)には報酬を提示しませんでしたが、彼らは予備調査の時と同じようにパズルを解くことを楽しんでいました。
グループ(A):パズルを解く度に報酬が貰える
グループ(B):報酬は貰えない
この実験でわかったこと
(パズルを解く熱心さの度合い)
やがて、実験者がテストの終了を告げます。そして、被験者に少し待っていてほしいと言って、実験者が部屋を出ます。
実は、実験はここからが本番でした。報酬を提示されなかったグループ(B)は、実験者が部屋に戻ってくるまでの間も、楽しんでパズルを解いていました。
一方、報酬を提示されたグループ(A)は、パズルに興味をなくしてしまって、雑誌を読んだり休憩したりする人数が増えたのです。
このことは、最初はそれ自体が楽しかったパズルが、報酬を渡されたことによって、報酬を得るための手段に過ぎなくなってしまったことを意味します。
報酬がモチベーションを減退させる?!
この実験の目的は「元々やる気をもって取り組んでいたことに報酬が与えられると、その活動に対する意識がどのように変化するか」ということを明らかにするというものでした。
結論は「報酬は一時的にやる気を増加させるが、報酬が支払われなくなると以前よりもやる気を減退させることがある」というものです。
なお、報酬を与えるという方式ではなく「これをしなければ懲罰を与える」という方式によるモチベートの仕方も同様の効力を示すことが知られています。
このモチベーションに関する理論を詳しく学べる本
この実験や、同学者の一連の研究に関心がお有りの方は以下の書籍をお読みください。
人を伸ばす力
正しいモチベーションがわかる本③「モチベーション3.0」
ここでは、報酬とモチベーションの関係性を、作業レベルごと(単純作業と高度な知的作業)に分けて実験した結果をご紹介します。
カール・ドゥンカーの実験
下の図は1940年代にカール・ドゥンカーという心理学者が行った実験の模様です。
被験者は箱に入れられたたくさんの画鋲とロウソク、マッチを渡され、ロウが垂れないようにロウソクを壁に取りつけるよう求められます。
ダニエル・ピンク『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社, 2010)より引用
MISSION:ロウが垂れないようにロウソクを壁に取りつける
多くの人は画鋲でロウソクを壁につけようとしますが、うまくいきません。
様々な試行錯誤をして、ほとんどの人は5分から10分程度で正解を思いつきます。
ダニエル・ピンク『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(講談社, 2010)より引用
この問題を解くポイントは、「画鋲の入れ物」として差し出された箱に「ロウソクの台」としての役割を見いだせる、つまり「機能的固着の克服」ができるかどうかというところにあります。
ANSWER:「画鋲の入れ物」として差し出された箱を「ロウソクの台」として使う
サム・グラックスバーグの応用実験
この問題を、サム・グラックスバーグという心理学者が別の実験に使用しました。
被験者を2つのグループに分けて、片方のグループには早く解いた人に報酬を出すと告げ、もう片方のグループには特に報酬を提示しませんでした。
グループ(A):早く解いた人が報酬を貰える
グループ(B):誰も報酬は貰えない
普通の考えでは、報酬を出すと告げたグループの方が、必死になって考えて、だからこそ早く問題を解くように思われます。
しかし、結果はまるで反対で、報酬を出したグループの方が平均で3分半余計に時間がかかりました。
報酬が創意工夫を鈍らせる
このエピソードにはさらに追加があります。
画鋲と箱を別々に被験者に提示した場合は、インセンティブを提示されたグループの方が早く問題を解いたということです。
つまり、インセンティブの提示は、「機能的固着の克服」のような、高度な知的活動を要する作業に対しては有害に働き、単純作業に対しては有益に働くという結論です。
このモチベーションに関する理論を詳しく学べる本
この実験に関しては、さらに詳しいことが以下の書籍に詳しく出ていますので、興味のある方はご覧ください。
モチベーション3.0
また、この書籍の著者の講演が以下の動画で見られるようになっています。もちろん無料で見られますし、日本語訳もつけられていますので気軽にご覧になってください。
まとめ「正しいモチベーションが強い組織を作る」
人に喜んで仕事をしてもらいたければどうすればいいか。この問いに対しては「報酬を提示する」という答えが一般的でしょう。
しかし、あまりに当たり前なその考えが、実は知らず知らずのうちに組織やチームの中から活力を失わせて、業績を低迷させてしまっているのかもしれない、ということを知っておいたほうがいいでしょう。
また、トップダウンで無理矢理に人を動かそうとしても、単純作業でしかも短期的な作業でしか効果は上がらないということも実験結果は示しています。
本当に強い組織を作るには、このモチベーションに関する正しい知識は必須とも言えます。
これを機会に、正しいモチベーションについて改めて学んでみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介したモチベーションに関する名著 3選
・「動機づける力」
・「人を伸ばす力」
・「モチベーション3.0」