『 経験は最良の教師である 』という言葉をご存知でしょうか?
名経営者として大きな成功を手にしている創業者たちも、ずっと順風満帆な人生を送ってきたわけではありません。
彼らもまた挫折し、失敗し、その経験を糧として這い上がり、成功を手にしたのです。
しかし、冒頭の言葉には続きがあります。
『 ただし授業料が高すぎる 』というものです。
失敗はコストです。成功を手にするための試行錯誤や失敗には意味がありますが、無意味な失敗は回避すべきです。
『 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ 』のです。
失敗を費用対効果の高いものにするために、書籍から知識を得ることは無意味ではないはずです。
ここでは、起業に役立つ書籍を4冊選び、その内容を簡単にご紹介していきたいと思います。
起業を考えたときに読んでおきたい本①
企業は利潤のために活動します。この本は、企業が利益を上げるための道筋を23のパターンに分けて解説したものです。エプソンやインテルなど、実在の会社の具体的な事例を題材としてそれぞれの収益モデルが小説仕立てで語られるため読みやすくなっています。
一例を挙げると、ニッチ市場を狙うことで確実な利益を上げるという戦略が紹介されています。資本力で大手には敵わないスタートアップ企業にとって、ニッチ市場を狙うというのは王道の戦略でしょう。
エイドリアン・J・スライウォツキー. ザ・プロフィット. ダイヤモンド社. P.165より引用
・自社と競合他社はどのような収益モデルをとっているか
・さらに利益を積み重ねるためには、現在のビジネスモデルにさらに磨きをかけるべきか、それとも新しいビジネスモデルを構築するべきか
本書からは、このような視点での気づきが得られるはずです。
起業を考えたときに読んでおきたい本②
市場は「赤い海(レッド・オーシャン)」と「青い海(ブルー・オーシャン)」に分けられます。レッド・オーシャンは激しい競争の海です。どれだけ豊かな海であっても多くのライバルがいれば限られたパイを奪い合う、血みどろの争いが繰り広げられます。
一方、ブルー・オーシャンは未開拓の市場です。ライバルがおらず利益の伸びにもおおいに期待できますが、しかし、海図さえない航海に進んでいく冒険のようなものでもあります。
W・チャン・キム. ブルーオーシャン・戦略. ダイヤモンド社. P.38より引用
ブルー・オーシャン戦略は、単に競争のない市場を探すことだと考えられていることが多いようですが、原著の主張は少し違います。著者は、ブルー・オーシャン戦略の本質はバリュー・イノベーションであると主張します。バリュー・イノベーションとは、コストを減らしながら商品やサービスの価値を高めることです。
前掲. P.37より引用
また、著者は模倣者が現れることへの警告も行っています。自分が開拓した豊かな漁場への他社の参入をどうやって防ぐか。それはブルー・オーシャン戦略ではなく、別のスキーム(枠組み)で考えなければなりません。
起業を考えたときに読んでおきたい本③
この本では、優れた競争戦略にはストーリーがあるということを論じています。
競争戦略とは「誰に」「何を」「どうやって」価値を提供するかを説明するものでなければなりません。3つの要素がそれぞれ因果関係をもって結びついており、しっかりとした筋道に従って語られる競争戦略でなければならないとされています。
優れた競争戦略は、ストーリーとして組みあがっていなければならないのです。
楠木建. ストーリーとしての競争戦略. 東洋経済.p.308より引用
競争力は、大きく2つに分けて考えられます。何をするか(What)ということと、どのようにするか(How)ということです。レストランで考えるなら、他店にないオリジナリティのあるメニューを提供するか、よくあるメニューを他店に真似ができないクオリティで作るかということです。
競争力のある新たな商品やサービスを打ち出そうとすると、つい新商品などの新規性ばかりに意識が向きがちです。しかし、新商品は、それが成功していればいるほど、どうしても競争相手による模倣の脅威にさらされます。
少し前に「ちょい飲み」として飲食店が食事とアルコールを提供するサービスが流行りました。そうしたコンセプトであらたな商品やサービスを打ち出して1社が成功すると、競合他社が相次いで同種の製品やサービスを打ち出すため、コンセプトそのものの優位性は失われてしまいます。
競争戦略はSPとOCの両輪で考えていく必要があります。他社に模倣されない競争戦略を築くためには、他社の模倣を防ぐ仕組みが必要です。その方策のひとつは、他社が真似をする気にならない、一見「非合理」なストーリーを組み立てることであると本書は論じています。
起業を考えたときに読んでおきたい本④
企業にとって顧客のニーズは重要です。顧客のニーズを的確に見極め、そこに合致した商品やサービスを提供していくからこそ企業は利益を生み出せます。まともな経営者なら誰でも、顧客のニーズに合わせて自社の商品を改良していこうとします。これを持続的イノベーションと呼びます。
しかし、企業が顧客のニーズに合わせて努力を積み重ねる、ここにこそ落とし穴があるとすればどうでしょうか。これが本書のテーマです。
グラフは、2003年から2016年の国内のデジタルカメラの出荷台数を示したものです。2010年をピークとして出荷台数が急減しています。
デジタルカメラの市場が拡大している間、カメラの良さとは「画質」であるということで、メーカーと消費者の意識は一致していました。デジタルカメラメーカーはユーザーのニーズに応えて、高画素数、高画質のカメラの開発にしのぎを削っていました。
このとき、持続的イノベーションが続いていたのです。
しかしそこへ、違う評価軸をもった商品が登場しました。2008年のiPhone3Gを始めとしたスマートフォンです。
初期のスマートフォンの画質は、デジタルカメラとは比べ物にならないほどに貧弱でした。しかし、スマートフォンで写真を撮ると、すぐにメール添付で人に送れたり、SNSに投稿できたりという「便利さ」があったのです。一部の敏感なユーザーはその利便性に着目し、スマートフォンの写真機能は一定の需要を得ました。
しかし、写真愛好家たちはスマートフォンの画質に満足せずにデジタルカメラを使い続けましたし、デジタルカメラメーカーもまた、自社の熱心なファンの声に応えて、それまでどおりの路線で商品開発を続けます。
スマートフォンは画質が悪い、だからデジタルカメラの競争相手にはならない。デジタルカメラメーカーはそう考えていました。初期は確かにそのとおりでしたが、スマートフォンは「便利さ」を軸に一定の評価を得て次第に売上げを伸ばし、その間にどんどん画質を向上させていきました。
いつしかスマートフォンは必要充分な画質を得るまでに進化し、一般ユーザーの間ではスマートフォンで写真を撮ることが当たり前になるまでになりました。その結果、デジタルカメラの市場は縮小してしまったのです。
「持続的イノベーション」の対極にあるものは「破壊的イノベーション」です。
破壊的イノベーションでは、それまで当たり前だった評価軸を否定し、新しい評価軸に基づいた商品を世に送り出します。スマートフォンは、「画質」を否定し、「便利さ」を打ち出して市場に参入しました。
その商品は、最初は少数のユーザーの評価しか得られませんが、次第に既存の評価軸の性能も上げていき、いずれ上位市場に食い込むまでに成長していくのです。
本書では、市場で支配的な勢力をもつメーカーは、だからこそ新興メーカーの台頭を許してしまうという論が示されており、本来は新興勢力の挑戦を受ける側の企業への警句として書かれています。しかし、逆に考えれば、スタートアップ企業が既存市場を攻略するための戦略を練るための道を示してくれるものとして読むこともできるでしょう。
まとめ
起業を志す方へのおすすめの本を4冊紹介させていただきました。スタートアップ企業は資本力では大企業に敵わないため、正面から挑戦する(レッド・オーシャンに飛び込む)のはおすすめできません。
ストーリーのある競争戦略に基づいて、ブルー・オーシャンであるニッチ市場を狙い、そこで力を蓄えて、いずれは破壊的イノベーションによって既存の市場を攻略するというのがひとつの戦略の形になるでしょう。
ご紹介した本は、いずれもビジネスパーソンの間で評価の高い本であり、必ず得るところがあるものと信じます。ぜひ、手に取ってご覧ください。
起業を考えたときに読んでおきたい本
① ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか
② ブルー・オーシャン戦略―競争のない世界を創造する
③ ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件
④ イノベーションのジレンマ 増補改訂版