今回の記事では、悩める管理職の方に「フェア・プロセス」という考え方をお届けします。
こんな上司におすすめ
・管理職として大切なことを学びたい
・自らリーダーシップを取って、新しいことを始めたい。
・あれこれ試行錯誤しているけど、なかなか自分の熱意が伝わらない。
管理職やチームのリーダーなら誰もが、自分の部下やチームメンバーに快適に働いてもらって、高い成果を上げてほしいと思いますよね。職場環境を改善し、高い成果を生む新しいやり方を作り出そうとするはずです。
しかし、この努力は必ず報われるのでしょうか。残念ながら、どれだけいいやり方であっても、導入の仕方を間違えてしまうと部下やチ-ムの反発を招き、モチベーションを下げ、パフォーマンスを落としてしまうことがあります。
なぜ、良かれと思って行った努力が期待と反対の結果を招いてしまうのか。ここでは、信頼と納得がモチベーションを導くシステムについて解説していきます。
もくじ
改善が部下や従業員のモチベーションを下げるとき
1990年台、ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンは、北米市場での販売を増やすためにメキシコ工場の生産拡大を計画しました。計画を実現させるためには十分な労働力を確保しなければなりません。
フォルクスワーゲン本社とメキシコ工場の労組委員長は、就業規則の改定を含む新しい労働協約に調印します。そこには、従業員の賃金が20%増しになる条項が含まれていました。普通に考えるなら、メキシコ工場の従業員たちは喜びそうなものです。
しかし、予想に反して、同年夏、メキシコ工場で大規模なストライキが起こりました。それでも経営陣は余裕を失いませんでした。新しい就業規則と労働協約は、客観的に見て従業員たちにメリットをもたらすものだったのです。「こんな騒ぎはすぐに収まる」経営陣はそう考えていました。
従業員たちが、いわゆる「合理的経済人(自分の得になる選択を合理的に行う)」であったなら、経営陣の考えは正しかったでしょう。
しかし、状況はさらに悪化しました。1か月後には300人規模のデモが起こり、警察が動員されました。ついには暴動が起こり、沈静化のために政府が介入する事態にまで発展してしまったのです。
なぜこのような一見不可思議な、理屈に合わない現象が起こったのでしょうか。
その原因は就業規則の変更や新しい労働協約調印のプロセスにありました。
会社が何をしようとしているのか、なぜ就業規則を変更しなければならないのか、新しい労働協約がどんな意味をもつのか。これらの事情を、従業員たちはまったく知らされないままにプロセスが進められたのです。
「会社は自分たちに何かを隠して物事を進めている、、」
良かれと思って改善をしても、その決定のプロセスが見えないと人は不信感を抱いてしまうという実例です。
なぜ部下のモチベーションは低下する?
「ないがしろにされている」と部下や従業員が感じた時、上司と部下の間に、あるいは経営陣と従業員の間に信頼関係は決して成立しません。
部下や従業員に関係のある意思決定を行う際は、そのプロセスを開示し、関与する機会を与えることが、部下や従業員の信頼を勝ち得るために非常に重要です。
現在の状況がどうなっているのかを明らかにしようとせず、どのような変化を起こすべきかを一切相談しないと部下はどう感じるでしょうか。
「自分には説明する必要がないということか、、」
「自分は相談する価値もないと見なされているのか、、」
情報を与えようとしない、アイデアを求めてこないなどの行動から、人は上司や経営陣の本心を敏感に感じ取ります。
人は誰もが自分の知性や存在を尊重してもらいたいと考えますし、自分が出したアイデアを真剣に検討してもらいたいと考えます。
そして、会社や組織がなんらかの意思決定をしたのなら、そのプロセスが合理的なものであると理解したいと考えるのです。これをフェア・プロセス(手続きの公正さ)と呼びます。
フェア・プロセスが存在しないと、信頼は傷つけられ、モチベーションは低下します。
部下のモチベーションを下げない! フェア・プロセスの3原則
信頼関係を築き上げるために重要なフェア・プロセスは、次の3つの要素から成り立っています。
1.エンゲージメント
2.説明
3.具体的な嫌い
エンゲージメント
エンゲージメント(engagement)は一般的には「契約」や「絆」、「愛着心」などと訳されます。
ここでは、部下や従業員に関係のある意思決定を行う際は、部下たちをプロセスに参加させることを指しています。
具体的には、部下たちに情報を与え、アイデアを求め、意見のやりとりを通じてより優れた意思決定を行う過程を指します。
フェア・プロセスを実現するためには、社員一人ひとりの人格を尊重し、出されたアイデアを尊重する姿勢が必要です。
説明
組織が部下や従業員に関わりのある意思決定をしたのなら、その結論に至った合理的な理由を説明しなければなりません。
組織全体の利益を考慮した結果の決定であると説明がなされれば、たとえ自分のアイデアが取り入れられなかったとしても、発案者が不信感を抱くことはありません。
具体的な期待
組織に新しいルールが取り入れたなら、「その中で自分は何を求められているのか」を部下や従業員が理解できるようにしなければなりません。
何をすべきで何をすべきでないか、どういった基準で評価がされるのかを明示すれば、新しいルールに対する不信感は薄らぎます。
部下に不利益な決定でもフェア・プロセスは大切
フェア・プロセスは、部下や従業員の不利益になる決定を行う際にも彼らのモチベーションに効果を発揮します。
・人件費を削減しなければならない
・勤務時間中は、いつ、どこであろうと喫煙を禁止とする
このようなルール改定の場合でも、そこに合理的な理由があり、意思決定の明らかにされていて、納得できるだけの説明が十分になされるのであれば人は受け入れやすくなります。
不利益な決定を行わなければならない時にも、そこから生じる不満やモチベーションの低下を最小限に抑えるためにフェア・プロセスの考え方が重要です。
まとめ
部下のために良かれと思って導入した仕組みが、説明やコミュニケーションが不足していたために思わぬ誤解を招いてしまい、大騒動に発展してしまう。そんな事例は、どこの組織にも見られるものです。
そんな課題に対して、フェア・プロセスという枠組みを使うことで、ありふれたトラブルを具体的に分析し、対処法が見いだせるのです。
フェア・プロセスについては、こちらの書籍に論文が掲載されています。
ちなみに、こちらの新版にあたる方にはフェア・プロセスの論文が掲載されておりませんのでご注意ください。