一般的には、マネジメントはチームのリーダーや部署のトップが行うものと考えられています。しかし、自分の課題を達成し、キャリアを育てていくために、部下が上司をマネジメントするという考え方があり、これを「ボス・マネジメント」と呼びます。
キャリアアップの一番の早道は「現在の仕事をこなしたうえで、より高いレベルの仕事を担い、実績を出して、今よりも高い地位にふさわしい実力があることを示すこと」です。
ここでは、キャリアアップのために、上司との関係をうまく築き、上司の力をうまく活用していくボス・マネジメントについて解説していきます。
もくじ
キャリアアップのためのボス・マネジメントとは?
ボス・マネジメントとは、部下の側から積極的に上司に働きかけ、築いた信頼関係を管理することを指します。
これは上司にゴマすりをして出世しようという考えとはまったく異なります。
司の得意、不得意や仕事のスタイルについて理解を深め、お互いの強みを生かし、弱みを補いあってより高い成果を出そうという試みです。
上司はキャリアアップのための資源である
自分のキャリアップのために、上司は非常に重要な要素となります。
ここでは、社内でのキャリアアップために、上司とどう関係を結んでいくべきなのかを次の2つの観点から解説します。
1.「TAKE」 ・・上司が何をしてくれるか(自分の目標を達成する)
2.「GIVE」 ・・上司に何をしてあげられるか(より高いレベルの仕事を獲得する)
「TAKE」上司の力は課題解決の助けになる
権限や知識、経験などをもっている上司は、自分よりも大きな力をもっています。自分に与えられた課題を達成するために、上司の力が大きな助けになる場合があります。
ひとつゲームを考えてみましょう。
問題
ここに「1」・「2」・「3」・「+」・「-」・「×」・「÷」の7種12枚のカードがあるとします。
これらを用いて「6」を作るにはどうすればいいでしょうか。
いくつかの方法が考えられますが、多くの方は「3×2」や「1+2+3」などと考えるでしょう。
では、「9」を作るように求められたらどうすればいいでしょうか。少し考えてみて、できない、という結論に至るかと思います。
「9」を作るためにはカードが足りないのです。
しかし、もし上司が「3」のカードをもっていて、それを借りてこられるとしたら「3×3」として「9」を作れます。あるいは、上司が「( )」を持っていれば「(1+2)×3」というような式を作れるようにカードを貸してくれるかもしれません。
自分よりも多くの手札を持つ上司の助力が得られれば、自分の力だけでは対処が難しい課題も解決できるようになるのです。
「GIVE」部下は上司を助けることができる
自分がたくさんの仕事を抱えて忙しくしているのと同様、あるいはそれ以上に上司は忙しく働いているはずであり、より上の階層(経営陣など)からの強いプレッシャーにさらされているかもしれません。ここにキャリアアップのヒントがあります。
もっとも有名な経営学者の一人であるピーター・F・ドラッカーは、上司と部下の関係について次のように語っています。
上司をマネジメントすることは、上司との間に信頼関係を築くことである。
そのためには、上司の側が、部下が彼の強みに合わせて仕事を行い、彼の弱みと限界に対して防衛策を講じてくれているものと信じてなければならない
ピーター・F・ドラッカー『プロフェッショナルの原点』
上司の弱みを理解する
上司の強みと弱みを理解した上で、部下が上司の特性に応じて働きかけていくことが、上司との間に信頼関係を築くために必要なのです。
注目すべき点は、上司の弱みを理解し、その弱みを補ってあげられるように振る舞うべきだというところです。
パソコンの扱いに自信がない上司もいれば、人間関係の調整が苦手な上司もいます。
しかし、上司の中には「完全でなければリーダーとして認められないのではないか」と考えている人もいます。
そうした人は、部下に自分の弱みを見せようとしませんし、不用意に弱い部分に触れようとすると、文字通り逆鱗に触れてしまう怖れがあります。
ITリテラシーの低さを指摘されたと受け取られてしまうと機嫌を損ねてしまう恐れがあるため、助力を申し出る際には相手の性格に応じたアプローチの仕方をする必要があります。
「お忙しいところ失礼します。今度、ぜひお力をお借りしたい案件があるので、その埋め合わせではありませんが、もしよろしかったら今取り組んでらっしゃるExcelの作業はこちらで処理させて頂きましょうか。」
などと言えば、悪い気もしないでしょう。
上司の仕事スタイルを理解する
上司の仕事のスタイルを理解し、そこに合わせていく努力も必要です。
仕事の進捗状況を事細かに報告し、相談されることを望む上司もいれば、事態が問題なく進んでいる限りは報告は不要と考える上司もいます。
報告のスタイルにしても、その場ですぐに質問ができる口頭での報告を好む上司もいれば、しっかりとまとまった文書での報告を好む上司もいます。部下が上司の仕事のスタイルに合わせていくことで、上司は快適に仕事ができ、部下への信頼を深めていくことでしょう。
上司と良好な信頼関係を築くためには、上司に能力や人格面での完全さを求めず、必要に応じて上司をサポートし、リーダーシップを支える力と意思があると示すことが重要です。
ダイヤモンド社, ハーバードビジネスレビュー 2007年9月号「完全なるリーダーはいらない」, p52より引用
ボス・マネジメントのチェックリスト
つぎにボス・マネジメントを実践するためのチェックリストを示します。
step
1上司や上司の置かれた状況を理解する
上司の目標や目的
上司へのプレッシャー
上司の強みや弱み、盲点
上司のワーク・スタイル
step
2あなた自身やあなたのニーズを評価する
あなた自身の強みと弱み
あなた自身のスタイル
あなた自身の上司への依存傾向
step
3以下のような関係を構築・維持する
あなたのニーズにもスタイルにも合う
互いに期待し合っている
上司にたえず情報を提供する
信頼と誠実さに支えられている
上司の時間や資源を使い分ける
ダイヤモンド社, ハーバードビジネスレビュー 2010年5月号「上司をマネジメントする」, p56より引用
まとめ
上司との関係構築の重要さを認識しているビジネスパーソンは多くはありません。ただでさえ多くの仕事を抱えているなかで、さらに上司との関係にまで神経を使いたくないという方も多いでしょう。
しかし、上司と円滑にコミュニケーションをとり、信頼関係を構築しておけば、自分の仕事を円滑に進めるために上司の力を活用できます。また、自分のキャリアを向上させるために、上司との良好な関係は必要不可欠でさえあります。
ボス・マネジメントは一見苦労が多く、とっつきにくく感じられるかもしれませんが、うまく使いこなせれば自分のキャリアを育てていくための強力なツールになるはずです。
キャリアアップのために上司の力を活用するテーマについては、以下の書籍に詳しく出ています。ぜひご覧ください。